黒いロングコートを着たMさんが、夢の中に…。
いつもひょっこりと顔をみせてくれたMさん。
薄めのコーヒーをすすりながら、いろんな話を交わした。
文学の話、学生時代デモに参加した時の話、身体に”不思議”を体験したハワイ旅行の話、宇宙の話、 生命の話、魂の話、法華経の話…。ユーモアを交えたMさんの話は、コーヒーやお茶と共に心に沁みた。
そういえば、この器をとても気に入ってらしたな…。
今の時期であれば、「やはり今年も村上春樹、ノーベル賞は
だめだったなあ…」と言いながらドアを開けていたはず。
村上作品のなかで『神の子どもたちは みな踊る』の中の「アイロンのある風景」が一番だなと言っていたMさん。
「今年も村上春樹さんのノーベル賞は敵いませんでしたよ!」
そんなある日、ドアを開けたMさんの口から「オレ、癌でね、入院して手術だよ…」
病状は軽いものではなかったようだ。
抗癌剤治療の数時間を、少しでも快適に過ごせるように、私が使っていたiPodシャッフルに、Mさんの好みそうな曲を入れ、ソニーの小型ヘッドホンと一緒に渡した。
『ベートーヴェンの“運命”』『ドヴォルザークの”新世界より”』
『三遊亭圓歌“中沢家の人々”』
『アンドルー・ワイル“ナチュラル・メディスン”』
その他にも、iPodには何十曲も入れた。
スマホに残されたMさんからのメールには…
「抗癌剤点滴の時には、ヘッドホンから流れる“運命”は応援歌です。凄く励みになります」
「ワイル先生のCDは、心身の癒しになります。そして、自ら行える力強い武器になりました」
「圓歌さんの落語は、何十回も聴いた。抱腹絶笑は萬薬より強ですなあ」
「姫神の”森羅万象”も最高!心を清水が洗っていくようです」
「今、”新世界”を聴いています。私の深い深い心が謳っています。
喜んでいる!泣いている!本当にありがとう!」
癌の治療と共に始めたMさんのホームページ『遥かなる標(しるべ)』
ようこそ、文学の世界へ
著者より・・・
「あたしゃーね、(ステージフォー、4)のクラブ(かに)に食いつかれた高齢者の中の悪がきヨ。好きで生まれてきたつもりも無いけど、
だからといってあっさりハイさよならバイバイと娑婆から蹴落とされるのもなんだか釈然としないねー。
そこで夢でも見るつもりで芥川や太宰、他他の大賞でもとるつもりで、つらつらと我が身の想いを小説にしてみたのよ…」
2006年12月に出版されたMさんの『玄い海(くろいうみ)』水野好朗(ペンネーム)を始め
小説「また明日~」 「しあわせな病人をめざして」 コラム「つれずれなるままに…」等等。
なかなか読みごたえがあり、またユーモアのセンスもあるMさんの置き土産。
2014年8月、Mさんは旅立った。